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460本目 安房直子の童話は単にほっとするだけのお話ではなかった

2011年 06月 18日
安房直子(1943-1993)は児童文学作家
小学生の時に読んだことがあったけど、ふと思い出して読んでみたくなった
童話なので本としては児童書が多いが一般向けの文庫が出ていたので2冊手に入れた
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・南の島の魔法の話(講談社文庫)
・春の窓 安房直子ファンタジスタ(講談社X文庫 ホワイトハート)
どちらも短編が12作品収録されている

なお、ホワイトハートというレーベルは、
少女小説とか女性向けライトノベルといったジャンルのものだが、
この本に関してはそういう系統に染まった編集はなされていない
それはいいのだがこの「春の窓」、挿絵がまったくないのが意外に感じる
「南の島の魔法の話」にはカットや挿絵が入っているというのに

さて、全部読み終えて、
当たり前のように物や植物や動物がしゃべったり、また同様に人がそれを受け入れたりしていて、
その過ぎる柔軟さや唐突さを読者として受け止めるのを拒否したくなったり、
メルヘンだった、童話だった、幻想的な景色だった、
など多くの人がもつであろう感想を持った

しかし、単純に、いいお話だったパチパチパチでおわれないお話は多い
獲得と喪失、幻想と現実、といった相反するものが同居し、
人間の日和見な薄汚さがそこに混ざる
さらには、
行為に対するそれなりの報いを受けている登場人物もいたりして、
どことなく冷めた視線を感じたりもした

たとえば「青い花」のかさ屋
街角で雨にぬれている女の子を見かけ、青色のかさを作ってやる
そして、その日から青い傘の注文が殺到するようになり、お金持ちになる
それまで傘の修繕が中心だったのに、それは放ってしまうようになる
まもなく、商売敵が登場して傘の注文がなくなってしまった
そんなとき、あの女の子が傘の修理が終わったどうかを店に確認しにやってくる
かさ屋は忙しさで修理を受けたことを忘れていた
同時に真心のこもっていない仕事をしていたことに恐れをなした
大急ぎで修理して次の日にかさを届けに行くとそこにあったのはあじさいの花だった

実体のない人間のおかげで報酬を得たが、仕事に対する真摯さを忘れた
それを思い出したときにはその恩人はもういなかった
次々に動いていくこの物語の混沌さ
登場人物がみんな救われてよかったとも言い切れない結末
ただ事ではない童話である

とはいっても童話である
全体の雰囲気は柔らかいし、
文体やお話の展開もいわゆるメルヘンチックで、しばしば歌が歌われたりもする
朗読するにはもってこいではないか、感情を表現しやすいという点で

なんて思っていると、
「さんしょっ子」「日暮れの海の物語」のような、救いのないお話もあったり、
ボーイミーツガールな「鳥」「だれも知らない時間」「春の窓」なんていうのもあってほっとしたり

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by excdaite | 2011-06-18 01:03 |